
<第53回>
BETWEEN NOTHINGNESS & ETERNITY / マハヴィシュヌ・オーケストラ
1973年作品
① TRILOGY
The Sunlit Path 〜輝ける道〜
La Mere de la Mer 〜海の聖母〜
Tomorrow's Story not the Same 〜永遠伝説〜
② SISTER ANDREA
③ DREAM
Produced by Murray Krugman & Mahavishnu John McLaughlin
1968年8月、ロンドン──。CREAM (クリーム) の ジャック・ブルース(b) は自身のソロ・アルバムの製作に携わっていた。同年に 「THINGS WE LIKE」 というタイトルで発表されることになるジャズ・アルバムで、もともと COLOSSEUM(コロシアム) の ジョン・ハインズマン(dr) と ディック・ヘクストール・スミス (sax) を交えたトリオ編成で企画されたものだった。
しかし、初日のレコーディングを終えた帰り道、 ジャック・ブルース(b) はギターを担いでとぼとぼ歩く旧友 ジョン・マクラフリン(g) を街角で見かけたため、フェラーリを停めて「何してんだ?」と声をかける。
この頃 ジョン・マクラフリン(g) は、ジャズの帝王 マイルス・デイビス(tp) と行動を共にしていたアメリカの トニー・ウィリアムス(dr) から、ニュー・バンド THE TONNY WILLIAMS LIFETIME へのメンバー入りを打診されていた。しかし彼にはアメリカへ渡る費用が工面できず、スタジオ・ミュージシャンとして小銭を稼いでいたときに、 ジャック・ブルース(b) とバッタリ出くわしたのである。
話を聞いた ジャック・ブルース(b) は、またとないチャンスを掴みかけている友人を後押しするため、製作中である自分のソロ・アルバムへ彼を誘い、その結果、レコーディングに途中参加して稼いだギャラを握り締めて、 ジョン・マクラフリン(g) は無事に渡米を果たした。
しかし THE TONNY WILLIAMS LIFETIME の一員として活動し始めた矢先、彼は マイルス・デイビス(tp) からもレコーディングに加わるようオファーを受け、数枚のアルバム製作に携わることになる。そのうちの1枚こそ、ジャズの帝王 マイルス・デイビス がロック音楽との融合を図った歴史的傑作 「BITCHES BREW」('69)であった──。
.WETHER REPORT(ウェザー・リポート) の作品を紹介した際にも触れたことなので端的に述べるが、その マイルス・デイビス 「BITCHES BREW」('69) に参加した若手ミュージシャンを中心に、その後3つのバンドが生まれることになる。 ウェイン・ショーター(sax)、 ジョー・ザビヌル(key) らによる WETHER REPORT、 チック・コリア(key) 率いる RETURN TO FOREVER、 そして ジョン・マクラフリン(g) の結成した MAHAVISHNU ORCHESTRA (マハヴィシュヌ・オーケストラ) である。
これらのバンドを起点として、後にクロス・オーバー、フュージョンなどと呼ばれる音楽が確立されることになるが、この3グループの中で最もロック寄りだったのが、今回とりあげる MAHAVISHNU ORCHESTRA である。「ジャズ・ロック」の祖ともいえるグループだ。
このバンドの最高傑作といえば、一般的には 2nd「BIRDS OF FIRE~火の鳥~」('72) だろう。アルバムを通して一貫性のあるスピリチュアルな作風と、各メンバーの創造性が発揮された名盤であり、私もこの作品を彼らの最高作とすることに異論はない。スタジオ・アルバムに限れば。
そう、私の考える MAHAVISHNU ORCHESTRA のベスト・アルバムは、ライブ盤である。 2nd「BIRDS OF FIRE~火の鳥~」('72) に続いて発表された 「BETWEEN NOTHINGNESS & ETERNITY~虚無からの飛翔~」('73) という作品。
ギター、ベース、ドラム、キーボード、バイオリンという5つの楽器が、高度なテクニックによってぶつかり合った 「第一期マハヴィシュヌ」 の最後の作品となったアルバムである。
わざわざ述べるまでもないことだと思うが、JAZZ畑のミュージシャンという人種は、ほぼ例外なく卓越した演奏技術を有している。ロック界で「テクニシャン」と呼ばれるプレイヤー達のレベルでは、ジャズの世界ではせいぜい平均値くらいだろう。決してジャズの優位性を問いたい訳でも、ロックの稚拙な面を嘆いている訳でもない。これは事実だ。
MAHAVISHNU ORCHESTRA を形成した面々は、その猛者揃いのジャズ系ミュージシャンの中においても、さらに高度なレベルにあった者たちばかりだった。驚異的というに相応しいバカテクを惜しげもなくロック音楽で実践したのが、このバンドであった。
そしてその結果産み落とされた最大の成果が、通算3作目にあたる本作 「BETWEEN NOTHINGNESS & ETERNITY~虚無からの飛翔~」 である。
収録曲は3曲。
①「Trilogy」 が12分、②「Sister Andrea」 が8分強、そして ③「Dream」 が21分超という構成で、このテのバンドの多くがそうであるように、ボーカルのないオール・インストゥルメンタルの作品である。
1曲1曲をレビューすることにあまり意味のないアルバムなので、いつものような曲目解説は省かせてもらうが、個人的に楽曲のクオリティに順位をつけると、①<②<③という順番になる。後に行くほどイイ。
どの曲も、前半こそ比較的フツーの「メロディ」や「リフ」といったものが存在するアンサンブルを聴くことができるが、 いずれも後半は即興演奏を交えた強烈なテクニカル・バトルが繰り広げられ、未曾有の超絶ジャズ・ロック世界が展開する。
その高度なテクニックの応酬はとても文章で表すことのできるようなレベルのものではない。古い表現を使えば「ブッ飛んでいる」。しかも、メンバー各人が好き勝手に弾きまくるだけ。特に ジョン・マクラフリン(g) の尋常ではない速弾きなどは、メロディもヘッタクレもないく、弦をかきむしっているだけだ。
整合性ゼロ、洗練度ゼロ、メロディ度ゼロ。これでアヴァンギャルドな作風にならず、一応楽曲として成立しているところに、第一期 MAHAVISHNU ORCHESTRA の特異性があった。
もう ③「Dream」 の後半などは完全に常軌を逸しており、CDタイムでいえば8分を過ぎたあたりからエンディングまでのおよそ13分は、空前絶後の高技能派プレイ同士が所狭しと暴れまわるメチャクチャな音世界。ギターがひずんでキーボードが舞い、ベースがうねってバイオリンがゆがむ。そして最後尾からそれら全てをドラムが畳み掛ける。どこまでが打ち合わせ通りでどこからがアドリブなのかもハッキリしないが、 何が何やら分からん凄まじい熱気が発散され、本作をジャズ・ロック史に残る名作へと押し上げている。
特に ビリー・コブハム のドラムは超人的だ。正確無比なリズムを刻みながら両手両足をフルに駆使して、バカバカしいほどパワー勝負なグルーヴ感を撒き散らすくせに、時折聴かせる繊細なハイ・ハットの使い方などには、JAZZミュージシャンらしい心配りが垣間見えるのだからタチが悪い。
とにかくメンバー全員がイッちゃってる。「名演」というよりは「狂演」。
そういう音楽に興味のある方は是非このアルバムを手にして貰いたい。ギター、キーボード、バイオリンによる強固なユニゾンは圧巻だし、リズム隊を含め5人全員がリード奏者ともいえるインター・プレイは凄絶の一言。
数ある「ジャズ・ロック」アルバムの中でも、間違いなく最高峰の部類に入る傑作である。
本作を最後に第一期 MAHAVISHNU ORCHESTRA は空中分解を遂げ、その後は ジョン・マクラフリン(g) 以外のメンバーを一新して「第二期」に突入するが、真に偉大だったといえるのはやはり「第一期」だろう。
この時代の MAHAVISHNU ORCHESTRA は、ジャズ・ロック、プログレッシブ・ロック界に計り知れない影響を与えた。彼らの影響下にあるアーティストを挙げるだけでも、後期 KING CRIMSON、 ジェフ・ベック、 SANTANA、 ゲイリー・ムーアなど、そうそうたる顔ぶれが並ぶ。
実際 ジェフ・ベックなどは、彼の代表作のひとつにして最もフュージョン色の濃かった名作 「WIRED」 のレコーディングに、元 MAHAVISHNU ORCHESTRA の ヤン・ハマー(key) と ナラダ・マイケル・ウォルデン (dr、第二期マハヴィシュヌのメンバーで後のブラック・ミュージック界の大物プロデューサー)を起用している。
「第一期」が終焉を迎えた要因にメンバー間の確執があったことは事実らしいが、それは本作を聴くだけでも何となく想像がつく。どう聴いても「仲良し倶楽部」には感じられない。しかし、各々が抱えたフラストレーションを一気に爆発させて、その矛先を演奏面に向けたからこそ、このアルバムに収録されているようなハイ・ボルテージなライブを構築できたのだろう。
恐ろしいバンドだったと、今聴いても痛感する。
ポップス音楽しか聴いたことがない方には、本作 「BETWEEN NOTHINGNESS & ETERNITY~虚無からの飛翔~」('73) は決してオススメできる作品ではないかもしれない。しかし同時に、ギターやドラムといった「楽器を聴く耳」を持つレベルのロック・ファンには、いつかは体験して欲しいとも思う。
後に単なるBGMへと成り下がっていく「フュージョン」とは本質において異なる音楽性だが、それなりの人が聴けば強烈なインパクトを残す作品だ。
短命に終わったとはいえ、ジャズ史・ロック史でひときわ異彩を放っている第一期 MAHAVISHNU ORCHESTRA の最期を飾るに相応しい名盤である。極めつけの1枚。
<2006.6.3>
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