【ロック名盤/名曲レビュー】ア・ヤング・パーソンズ・トゥ70年代80年代ROCK

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<第38回>
ジェラルドの汚れなき世界 / ジェスロ・タル
1972年作品

① Thick as a Brick~ジェラルドの汚れなき世界~
② Thick as a Brick~ジェラルドの汚れなき世界~



Produced by Ian Anderson




 文学促進創案協会が主催した詩のコンテストで、優勝に輝いた
 ジェラルド・ボストックという8歳の天才少年による社会批判的
 な詩を、ジェスロ・タルが楽曲化した一大傑作!



 このような宣伝文句と共に発表された本作 「THICK AS A BRICK~ジェラルドの汚れなき世界~」('72) は、 JETHRO TULL (ジェスロ・タル) の5枚目のアルバムである。
 JETHRO TULL は、以前このコーナーでご紹介した GENESIS(ジェネシス) と同様、イギリス以外の何者でもないグループのひとつだ。
 バンドの要は、ボーカリストでありフルート奏者である イアン・アンダーソン 。この男が一筋縄ではいかないクセ者で、英国人らしいブラック・ユーモアと、物事を常に斜に構えて風刺するヒネくれた精神の持ち主。ステージでは奇妙なダンスを披露し、上手いのか下手なのか分からないフルートを、片足を曲げて案山子のように一本足で吹き倒して、「狂気のフラミンゴ」などという恥ずかしい異名を持っている。
 '72年といえば、プログレッシブ・ロックが恐るべき進化を遂げていた時期でもある。そのプログレ全盛の時代に発表された本作 ジェラルドの汚れなき世界」('72) について当の イアン・アンダーソン は、 「あの時代、多くのミュージシャン達がコンセプト・アルバムを作ろうとしていた。だから我々はそれをパロディ化した」 などとうそぶいているが、このアルバムの完成度はそんな軽薄な動機で到達できるようなレベルのものではない。


 発表当時のアナログ・レコードでは、言うまでもなくA面B面の分岐があるため、CD化の際には2曲に分かれてはいるが、実質的には1曲である。アルバム1枚に1曲。それこそ イアン・アンダーソン に言わせれば 「当時のプログレ・バンドは皆、長い曲を作りたがり、レコード片面で1曲なんてのも多かったから、我々もアルバム全部で1曲にしてみた」 となるのだろうが、それは口にするほど簡単に実践できるようなことではない。超人的な楽曲構成力や演奏力、アイデアといった要素が必要になることは、容易に想像できる。
 で、それを成し遂げてしまったのがこのアルバム。アコースティック・ギターとフルートに導かれて、気の抜けた イアン・アンダーソン のボーカルが聴こえてきてからのおよそ43分を、ほとんど退屈することなく一気に聴くことのできるリーダビリティは、驚異的である。
 決してド派手なアレンジやサウンドが随所に散りばめられているワケではないし、目まぐるしく場面展開が行われるワケでもない。それでも不思議なことに、すんなりと全編通して聴けてしまう。ジャズ調のスウィング・パートや、時折心を和ませる牧歌的なアコースティック・ギターの調べ、そして時に激しく時に美しいフルートの音色。こうしたパーツを適所に配し、類い稀な構成力と人懐っこいメロディで融合させた結果、飽きずに聴くことのできる傑作長編が産み出されたのであろう。
 1音たりともおろそかにしない、よく練られた楽曲アレンジと演奏力には、音楽そのものをパロディ視するような イアン・アンダーソン(vo) の軽口の裏側に隠された音楽家としての資質と知性を、垣間見るような思いがする。
 しかし何よりもこの作品の特筆すべき点は、決して難解ではないところだ 。プログレッシブ・ロックの、しかもAB両面で1曲という大作でありながら、理解に苦しむパートは皆無に近い。大衆ウケしない作風、構成の楽曲を、万人に分かりやすい形に消化して完成させたのが、この THICK AS A BRICK~ジェラルドの汚れなき世界~」('72) だ。ここに本作の凄みがある。
 ちなみにこのアルバムは、発表当時12ページ綴りの新聞仕立てのジャケットでレコード発売され、そのアイデアも話題を呼んだ。



 JETHRO TULL は、翌'73年にもアルバム1枚をフルに使ってキリストの受難劇をモチーフにした 「A PASSION PLAY」 を発表しているが、こちらは極度に難解な作品である。プログレ・ファンの間では JETHRO TULL 作品の中で本作と人気を二分するアルバムだが、少なくとも当サイトを見てくれている方々にオススメできるのは、断然今回ご紹介した THICK AS A BRICK~ジェラルドの汚れなき世界~」('72) だろう。
 このアルバムは、 JETHRO TULL 初の全米No.1に輝いた作品でもあった。
 収録曲1曲というアルバムがこれほど広く支持されたのは、本作の他には翌'73年に発表された マイク・オールドフィールド の 「チューブラ・ベルズ」('73) くらいのものではないだろうか。似て非なる音楽性の両者に共通している点は、楽曲、演奏の隅々まで丹念に練られた繊細なアレンジとメロディということに尽きる。特に本作の場合は、緻密に計算されたように聴こえないプレイやステージでのフラミンゴ・スタイル、そしてまるで遊び半分で製作に着手したかのような イアン・アンダーソン(vo) のコメントなどとは、まったく正反対のクオリティを誇る傑作だ。
 トラッド・フォーク、ジャズ、ブルーズといった多くのエッセンスを混ぜ合わせながら、 JETHRO TULL らしいサウンドで排出する超一級の作品。それがこのアルバム。
 興味のある方は、是非一度お試し頂きたい。



 尚、冒頭で 「ジェラルド・ボストック少年の詩を基にした作品」 などということを記したが、これは後に大嘘だったことが後に発覚している。 イアン・アンダーソン(vo) の自作自演。つまり、詩を書いたのも彼本人だったのである。
 事実が発覚するまでの間、このアルバムのコンセプトや社会風刺的な詩に対する賞賛の声を彼はシニカルに眺めていた違いない。さぞや自分の計画に振り回される人々をあざ笑っていたことだろう。 イアン・アンダーソン とは、そういう男である。

<2005.12.23>



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